悪人 吉田修一 著

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20090507_690599<あらすじ>
 ― 幸せになりたかった。ただ、それだけを、願っていた。―
保険外交員の女が殺害された。捜査線上に浮かぶ男。
彼と出会ったもう一人の女。加害者と被害者、それぞれの家族たち。
群像劇は、逃亡激から純愛劇へ。
なぜ、事件は起きたのか?なぜ、二人は逃げ続けるのか?
そして、悪人とはいったい誰なのか?
<感想>
読み始めも、途中も、読み終わった今も「最高傑作!」と言い切れる力作。
吉田修一氏、進化した。まさに真骨頂。
会話部分を九州弁で書かれいるので文章が生きているようで温度がある。
読んでいるうちに耳に会話が聞こえてくるようだ。
ランドマーク」と似た空気感だが、本作品は登場人物の皆に対して
より深く描くことで、哀しい物語なのに本書には優しさと温かさが漂っている。
しかし、けして感情的ではない。少し距離感を持って書かれている為より切なくて哀しくなる。
本書の中ほど。祐一がファッションヘルスの女性に入れあげるシーン。
そのくだりのなんて切ないことか。胸が詰まった。
ある人には人生を壊され、恨んでも恨みきれずどんな謝罪をされても許せない「悪人」だけど、
目線を変えると心からその「悪人」を愛する人もいるのだ。
吉田氏の筆力を感じたのはサスペンスでありながら早い段階で犯人はわかるのに
そこから最後まで読者の関心をそらすことなく最後まで読ませるところだろう。
サスペンスなのに人間ドラマを描いている。サスペンスで泣けるのだから。
この小説で言いたかったのはきっとこの部分なのではないだろうか。

「大切な人がおるね?」
「その人の幸せな様子を思うだけで、自分までうれしくなってくるような人たい」
「おらん人が多すぎるよ」
「今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい。大切な人がおらん人間は、
何でもできると思い込む。自分は失うもんがなかっち、それで自分が強うなった気になっとる。
失うものもなければ、欲しいものもない。だけんやろ、自分を余裕のある人間っち思い込んで、
失ったり、欲しがったり一喜一憂する人間を、馬鹿にした目で眺めとる。そうじゃなかとよ。
本当はそれじゃ駄目とよ。」

この小説は吉田氏の現代社会へのひとつの提言でもあるのだろう。
素晴らしい作品にRespect!
 

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