<あらすじ>
北国の湿原を背にするラブホテル。生活に諦念や倦怠を感じる男と女は ”非日常” を求めてその扉を開く-。
恋人から投稿ヌード写真の撮影に誘われた女性事務員。
貧乏寺の維持のために檀家たちと肌を重ねる住職の妻。
アダルト玩具会社の社員とホテル経営者の娘。
ささやかな昂揚の後、彼らは安らぎと寂しさを手に、部屋を出て行く。人生の一瞬の煌めきを鮮やかに描く全7編。
第149回 直木賞受賞作
<感想>
私の好きな作風でした。
1つのラブホテルを舞台にした7つの短編は、時系列が現在→過去へと遡る手法で、それが非常に魅力的でした。
ひとつのカップルが織りなす話の合間に描かれる細かなホテルの内装や、その当時の噂話が、次の短編を読むと出てきます。(あぁ、さっきの短編の中にあったな)と気づいた時、また小説に引き込まれるのです。憎い演出だと思いました。
そして何よりも女性の心情をわかっている。
「シャッターチャンス」の主人公が、心の底でずっと欲しかった一言をカレから言われる。だけど、それは今日じゃない、今じゃない、こんなことのあとじゃない・・・その気持ち、すごくわかる。
「本日開店」の主人公が初めて感じた「恋」の淡い気持ちが、いとも簡単に消え去る空しさ、哀しさ。
「えっち屋」のアダルト玩具会社の男とラブホテル経営者のやりとり。何がひとの幸せなのか、それはわからないなぁ~と。
「バブルバス」はこの本の中でも唯一の幸せにラブホテルが使われたエピソード。ラブホテルも意味があるよなと思った1編。
「せんせぇ」は、最後まで描かれていなかったけれど、前の4編に出てきた過去の事件の話に繋がるのだろうと匂わせている。
最初にその事件が描かれた時は、教師と女子高生の恋愛の果てか・・・と思った。そう思わせておいて、実はこんなことがあったのだと言うところが、上手いと思う。
「星を見ていた」は、切ない。60歳。真面目に必死に生きてきた主人公。母親がいつも彼女に言ってた言葉「なにがあっても働け。一生懸命に体動かしてる人間には誰もなにも言わねぇもんだ。聞きたくねえことには耳をふさげ・・・」が切なくて虚しい。
「ギフト」過去の短編で語られてきた、あまり良くない噂のホテルローヤルのオーナーとその妻のエピソード。
彼らにもこんな過去があり、そして今があることがわかる。
今で人を判断してしまいがちだけど、人には過去があり、そして今があるのだとこの小説を読んで改めて気づいた。
次回も、桜木紫乃さんの小説を読もうと思う
コメント待ってます♪
私はこの本、古本屋さんでみつけて読みました。私もこの本好きな部類の本です。
こういうのって、年とったから、味わい深く読めるような気がします。20代で読んでいたら、私にはわからなかったような気がします。
なんさん
うんうん、わかります。
ですよねぇ~、今だからこの深みがわかると言うか、言葉と文章の奥にあるものが感じ取れると言うか・・・そんな感じ。
桜木紫乃さんの本を他も読んでみたいと思っています。