死亡推定時刻 朔 立木 著

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20090507_690605<あらすじ>

渡辺土建の社長・渡辺恒蔵の一人娘美加が、
中学校から帰宅途中、何者かに誘拐された。
美加の母親・美貴子が電話で受けた犯人からの身代金要求は一億円。
「警察に言ったら娘の命はない」という常套句はなかった。
地元の有力者である恒蔵の通報によって、
直ちに県警本部と事件発生署との合同捜査本部が設置された。
翌日、犯人から美貴子に連絡が入る。
高速道路から身代金を投下せよと言う指示だったが、
警察は美貴子に身代金を投下させず…。
犯罪発生→捜査→裁判の実態を、現役弁護士である著者がリアルに描く。
<感想>
これはフィクション。と、確認したくなるようなリアルさ。
小説と言うよりも冤罪(えんざい)が起こりえる可能性を記したレポートのような文体。
実は、面白いと言う評価を聞き、読み始めたものの、1/4を読んだ段階で1度挫折。
2度目のチャレンジで読破した。
前半はキツかったものの、半分を越えたところから一気読み。
この本には、冤罪を生む日本の警察、検察、裁判所の実態が詰まっている。
本当にあった事件のようなリアルさなのは、作者あとがきにも記されているように
「全体の筋書きは架空のものだが作品を構成する膨大な細部のほとんどは、
実際にどこか存在したもの」だからなのだろう。
法に対する知識のなさが自分を不利にする現実、弁護士の力に左右される裁判、
一審判決を控訴裁判で覆すことのむずかしさを思い知った。
今までも、やってもないことをナゼ自白するんだろう?と思ったこともあった。
それは、私は脅しには屈しない!と思っていたからなのだが、
犯人:小林昭二のように睡眠も、食事も与えられず、極限状態の恐怖にさらされ、
それでも毅然と「やっていない」と言い続ける自信が小説を読んでいくうちに消えた。
冤罪と言うのは、決して一人や二人の悪人の悪意や誰かひとりのミスだけによって
起こるものではなくて、何十人もの人間のしたこと、悪意ばかりではなくある種の善意、
裏切りや過失ばかりではなく、ある種の義務に忠実な振る舞いや、模範的な行為などが
合わさって絡み合って生むものなんだとラストの言葉にうなづいてしまった。
最後のページの小林昭二が川井弁護士に宛てた手紙は私の心を掴んで話さなかった。
死刑反対論者ではないけれど、人が人を裁くことの重みを知るとともに、
陪審員制度が始まるこれからに向けてぜひ1度読んでみて欲しいフィクションである。 

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