<あらすじ>
神宮外苑で君に会った
テレビ局に勤める早川俊平はある日公園で耳の不自由な女性と出会う。
取材で人との声を集める俊平と、音のない世界で暮らす彼女。
やがて恋の落ちる二人だが・・・。
<感想>
「悪人」で新境地を開いた吉田修一氏。本作は恋愛小説です。
印象としては「東京湾景」に似た風味。
耳の不自由な響子とのつきあいの中で俊平が感じていく感情を描いた作品です。
本作を読んで感じたのはやっぱり私は吉田修一氏の小説が好きだと言うこと。
彼の小説を読む時、私の中にある自分でも気づいていない「感覚」を掘り起こしてくれるような気がして
理解できると言うか、共鳴を感じていまいます。
本作の大きなポイントは「音」。
日常は音だらけ。TV,ラジオ、電化製品もほとんどの物が音声で知らせてくれる時代。
全く音のない世界を想像することもできないけれど、俊平が響子と出会った時の状況、
響子と付き合うきっかけになったデートの状況などを読んでいると、
読み手の私までが無音の中にいるような気分になりました。
本当に伝えたいことを言葉なしで伝えることのむずかしさ。
人を思いやることの大切さ。
相手が外国人だって、耳が不自由だって、目が見えなくたって
惹かれて好きになってしまえば関係ないと思いつつ、
それだけの覚悟が自分にないこともわかっているから、俊平のとまどいがわかる。
響子が俊平のどこに惹かれてるのか、知りたかったけれど、
それを描いてしまうと小説の粋さがなくなってしまんでしょうね。
ラスト、俊平と響子が次のステップにあがれそうな空気感を残して
サクッと終わるエンディングも悪くないと思いました。
コメント待ってます♪