「蜘蛛の拍子舞」「身替座禅」二本立て
「蜘蛛の拍子舞 ~花山院空御所の場~」
※2009年10月公演
CAST:板東玉三郎、尾上松緑、中村萬太郎、尾上右近
尾上菊之助、板東三津五郎
「身替座禅 新古演劇十種の内」
※2009年12月公演
作:岡村柿紅
CAST:中村勘三郎、市川染五郎、板東巳之助、板東新悟
坂東三津五郎
<STORY>
「蜘蛛の拍子舞」
主を失い荒れ果てた空御所に現れるという”もののけ”を検分しに来た源頼光(尾上菊之助)。そこへ突如現れた美しい白拍子妻菊(板東玉三郎)は艶やかな踊りを見せ、色仕掛けで頼光をたぶらかそうとする。頼光と四天王の一人である渡辺綱(尾上松緑)は、妻菊と共に拍子舞を踊るのだが、灯火に照らされた彼女の影が蜘蛛に見えることから、女に化けた”もののけ”だと見破る。討ちかかる二人に千筋の糸を繰り出して姿を消す妻菊。再び姿を現した妻菊は恐ろしい女郎蜘蛛の精へと姿を変え、華麗な大立廻りを繰り広げる。苦戦する頼光たちのもとへ怪力無双の坂田金時が駆けつけて…。
<感想> 評価 ★3.5
坂東玉三郎さんの歌舞伎役者としての実力を存分に味わえる作品でした。
今回は、上映前にあらすじや演目についての説明がスクリーンに文章として表示されました。それを読むことでより理解して観劇できたのでありがたいシステム。それによると、<拍子舞>とは、鼓の拍子に合わせ唄いながら踊る舞だそうです。
前半1/3は玉三郎(妻菊)、菊之助(頼光)そして松緑(渡辺綱)が問答しつつ踊る展開。玉三郎さんの女形舞は美しいのひとことしかし、理解できない長唄と踊りで睡魔に襲われかけてしまったのも事実舞の時間、半分で十分かも~
三人の舞の最後に、頼光と渡辺綱は、妻菊の正体がもののけの蜘蛛であることに気づきます。ふたりが打ちかかろうとしてきたことで、妻菊は蜘蛛の糸を出してふたりを煙に巻き舞台下へ消えて行きます。ここから一気に舞台は盛り上がり始めました。小さな蜘蛛のもののけが登場、家来たちに打ちかかられたことで、大きく変化。着ぐるみの蜘蛛の立ち回りが始まります。着ぐるみ蜘蛛は見得まで切って見応えがありました。まさしく歌舞伎イリュージョン。その後、蜘蛛の精となって再登場の玉三郎さん。これはびっくり!美しい女形の玉三郎さんが、恐ろしい蜘蛛メイクで登場し、見得を切ります。最初、玉三郎さんと思わなかったほど。すごいわ、玉三郎さんの芸の幅!
蜘蛛の精に手こずっている頼光たちの元に、最後は三津五郎(坂田金時)が登場し、最大の盛り上がりに。
これぞ歌舞伎と言う演目でした。
<STORY>「身替座禅」
大名の山蔭右京(中村勘三郎)は奥方の玉の井(坂東三津五郎)に隠れて恋人の花子に逢いに行くために、屋敷にある持仏堂に籠り座禅の行をすると嘘をつく。右京は太郎冠者(市川染五郎)を呼び、自らの身替りとして衾(ふすま ※現代の掛け布団)
を被せ、急いで花子のもとへ向かう。だが夫を心配した玉の井が持仏堂に見舞いにやって来る。驚いた太郎冠者は衾に隠れ無言のままやりすごそうとするのだが、せめてお顔だけでも見せて欲しいと衾を剥ぎ取られてしまう。太郎冠者から事の事実を知り、怒った玉の井は右京を懲らしめるために、太郎冠者の代わりに衾を被り右京の帰りを待つ。夜も更けた頃、何も知らずに千鳥足で帰ってきた右京は、花子との逢瀬の様子を巧みな踊りで語ってみせる…。
<感想> 評価 ★4
舞台セットなしで繰り広げられる狂言由来の作品。
シネマ歌舞伎で勘三郎さんの本格的な歌舞伎を観たのははじめてですが、カレは何を演じさせても、一気に”勘三郎の世界”に変えてしまう役者だなと思います。本作品も、何もない舞台なのに、カレが動き、話すだけでセットが見える気がするのだから不思議です。それに、理解しにくむずかしい古語さえも勘三郎さんが話せばわかりやすい聞こえます。あらすじもとてもシンプルで現代でも通じるような話だったせいもあり、楽しく観ました。
本作も、映画上映前に演目説明がまたありました。これは本当にありがたい。それによると、初演は明治頃で、六世尾上菊五郎(右京)と、七世坂東三津五郎(玉の井)のコンビで大人気を博した演目だそうです。それを菊五郎のひ孫である勘三郎と曾孫である三津五郎が同じ役を勤めたそうで、勘三郎さんが急逝された今となれば貴重な作品になりますね。
女形の三津五郎さんもはじめて観ましたが、カレも芸の幅が本当に広いと思います。”あほう役”でコミカルな演技を見せたかと思うと、先の「蜘蛛の拍子舞」では怪力無双姿の坂田金時、かと思えば女形の奥方。どの役どころも魅力的で深みを感じます。歌舞伎役者さんってすごいなぁと改めて思うのです。
太郎冠者の染五郎さんも声の通りもよく、上手かったです。これからを担う若手なので期待しています。
ほろ酔い気分で浮かれまくってるバカ亭主を勘三郎さんが魅力的に見せ、それを衾(ふすま)を被りながら怒りに震えている玉の井を三津五郎さんが演じると言うまさしく油に乗っているふたりを堪能できた作品でした。
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